雨の日


 














                           

老残の夢


 


遠い昔に 

艶やかな緑にとがった 稲葉をなびかせて

筋肉質の夏風は 青い汗の迸(ほとばし)る 

若さの影のなかに 吹き去っていった

 

あのころは 楽しかった

これから先の 約束された将来を 確信していた

それが今では 襤褸のように 落ちぶれはて

零落の鴉と一緒に 山野のあばら家に棲んでいる

 

トウモロコシを食べたい

とおい県境の 痩せ山の さむい畑でとれた 

一口噛めば 甘い幸せのときが 口内に広がる 

あのスイートコーンを もう一度食べたい

 

あの大賀ハスは 今年も瓢箪の池で 

淡い桃色の 太古の花を 咲かせているのだろうか

あの軒下の 涼やかな風鈴は 

いまでも 魂の音色を 奏でているのだろうか

 

ああ 遠い夢は 老残の魂魄に 散りしだれ

まぼろしの彼方を かけめぐる

 

 

   奈津光平の詩「老残の夢」より