紫陽花


 

泥水の水田に 夕陽がきらきらと照り映え 

くろいツバメの影が すばやく走る

遠くまで 小さな青い苗が風に揺れ 

新しい生命が 田圃のなかにひかっている

 

灰色の空に 残光がしたたりあふれ 

落日が 遠い地平に傾いてゆく

羊のように 淋しい夕暮れが あたりに忍び寄り 

ひんやりとした 夜気の匂いが 少しずつ混じってくる

 

やがて 

病院の廊下のような夜が さらさらと更けてゆき 

夜露のながれる 青い窓の向こうに 漆黒の闇がただよう

その深い暗闇の奥底から 魂を吸い取るように 杜鵑が鳴いている

 

ときおり 

黒い風音のなかに さみしい雨音が混じる

わたしの生存の前に生きていた人たちも 聞いていた雨音

遠い亡霊のような悲しさが 紫陽花(あじさい)の中に消えてゆく

 

 

 奈津光平の詩「紫陽花」より