セピア色の喪失


 

泥水がたまる 曲がりくねった道を 

黄金色の人影が 襤褸のように 

ふらふらと歩いている 

このセピア色の写真のなかの若者は誰なのだろう

この若者は私であるはずはない

私は私のままで少しも変わってはいないはずだ

 

私は いつも 孤独の中に逃げ込んでいた

孤高の壁を 碧天高く積み上げ 

ずたずたに引き裂かれた精神の傷口を 

獣のように真っ赤な舌で嘗め回し 

衰弱しきった神経は 死と紙一重のところで 

辛うじて癒されていた

 

私は誰にも心を開かなかった

心の中を土足で踏みにじられるのが たまらなく厭で 

無視と無関心の鎧を幾重にも纏い心を守っていた

 

それでも 私は一切のものを喪失してしまった

私は私を守ろうとしたことに守られていなかった

人と話をしたかった

話を聞いて欲しかった

心を打ち明けたかった

やさしさを求めたかった

 

満月が妖しく冷たい光を放ち 生暖かい風が 

生臭い匂いを運んでくる

 

井戸水をポンプでくみ上げ 顔を水につけながら 

ごくごくと水を飲み続ける

頭から水が滴り落ちて足元を濡らす

それでも 咽喉の渇きは癒されない 

 

冷たいコンクリートブロックの壁にもたれて 

萎んだ朝顔を見ていると 涙があふれてきて 

セピア色の写真が 遠い幻のように霞んで見えた

 

       奈津光平の詩「セピア色の喪失」より