正月


 













                           

冬の夜


 


お洒落な店が立ち並ぶ ときめきの赤い街

どこからか あまい歌声が流れきて 

クリスマスツリーに飾られたイルミネーションが

生霊(いきすだま)のように 暗闇のなかに 冴え冴えとひかっている

 

繁華な夜の街には 

色とりどりの鮮やかな ネオンサインがきらめき 

自動車のヘッドライトの帯が きらきらとながれゆき

まぶしいほど 人工の光があふれている

 

それでも 街外れに来ると 

電線が つめたい風に鳴りひびき  

しんと 冴えわたった夜空に 

オリオン座やこいぬ座が 赤く輝いている 

暗闇を切り取ったように ぼんやりともる街燈の下から 

栗毛の子猫が すばやく道路を横切り

草叢のなかに隠れて行った

 

黄色い銀杏の枯葉が舞い散る舗道の

足元に冬がこごえ 夜はしんしんと更けてゆく

できるものなら 赤い土のなかで 

春がくるまで なんにもなしに 眠っていたい

 

 

奈津光平の詩「冬の夜」より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                         

夕焼け


 
















                          

冬の道


 













                         

日向ぼっこ


 


ゆるやかな傾斜地の 山間に沿って 

狭い棚田が ひっそりと連なっている

 

その山裾の 萱葺き屋根の農家の

黒光りする縁側に さんさんと差し込む 冬の陽光 

 

白い障子の前に広がる 日溜りのなかの 日向ぼっこ

寒くてかじかんだ指先が ふっくりとふくれ

縮(ちぢ)こまった背中が ゆるゆると伸びてくる

 

ときおり 雲に太陽が隠れ 

あたりいちめん ひんやりとした冬にまいもどる  

 

しばらくすると ながれる雲の端が 太陽に炙(あぶ)られ 

きらきらと もう一度 やさしいぬくもりが縁側にひろがり 

うれしい丸坊主の影が 障子に膨らんでくる 

 

やがて 冬の短い山間の太陽は 

ほそい日光を落としながら 夕焼けに傾いてゆき

 

日向ぼっこの ぬくもりは さむい夕暮れの

かなしい懸巣(かけす)の鳴き声といっしょに 

山の彼方へ消えてしまった

 

 

          奈津光平の詩「日向ぼっこ」より





















                           

浮雲


 













                          

晩秋















                          

無音のこころ


 

すべてのときは死んでしまう

それなのに 

死んでしまったときの中の言葉は 

その命をながらえて 今でも人間を苦しめている

 

わたしは 

おぞましい人間の世界から逃げ出すため

人ごみを避けて 一人で汽車に乗った

そうして ときの旅人のように やさしい光を求めて

見知らぬ土地を彷徨(さまよ)った  

 

柿の葉に 秋の夕日が照りかえり

無言でただよう 淡いうす雲  

遠くの山々は 和毛(にこげ)のような薄茶色に染まり

椎の実が 枯れ草の斜面にころげ落ちる


ああ 月光のような言葉の人と話がしたい

そうして 自然のやさしさにつつまれて

無音のこころにひたりたい

 

          

        奈津光平の詩「無音のこころ」より








 

 

                         

天狼


 












                          

散策


 













                         

朝日のあたる道



 

茶色い山の頂に 冬の太陽が昇り

民家の屋根や田圃や道路や線路のうえに 

ずんずんと光をふりおとす

 

路上では 斜めから差し込む朝日に 

今日を生きている人たちの 人影が長くうごめき 

それぞれの生活のときが 鼓動している

 

わたしは 街路樹のひかる 

朝日のあたる道を 今日も歩いている

 

けれども 桜の花の咲くころには 

この道とも お別れだ 

 

裸のむくげの梢から こぼれ落ちる

朝日に照らされて 

 

わたしの魂は ゆらゆらと 

やさしい光のなかにとけていった

 

       奈津光平の詩「朝日のあたる道」より

 

 






 

 

                         

ひとり旅


 










                          

ときの番人


 












                          

巣立ち


 


細長い陽光が 枯れた切株に 降りそそぎ 

痩せた人影が 寒そうに 田圃の中を過ぎてゆく

遠くの山並みは 黄褐色に染まり 白い冬景色が うっすらと揺れている

 

こんな 透きとおる 冬の日に ずっと先のほうから聞こえてくる 

楽しい未来のときの声に誘われ 青い生命が 遠いところへ巣立ってゆく

まるで すくすくと成長した 柘榴の実が 赤く破裂するかのように

 

これから先には 辛い厳しい風が吹き荒び 飢えや絶望に襲われるかもしれない

それでも 遠い原始のときから えんえんと続いてきた 巣立ちのとき

それは 生きていることのあかしなのだ

 

何処に行っても 太陽は燦々と降りそそぐ

青い魂よ その生命の恵みを 全身いっぱいに吸収して 逞しく生きてゆけ

そうして 

何があっても 挫(くじ)けずに あり余るほど 楽しい夢を手に入れるのだ

 

 

奈津光平の詩「巣立ち」より

 

 






 

                          

俄雨




 












                          

秋の始まり


 













                           

ときの旅人



ときの風に吹かれて 

どこまでも流れながされる ときの旅人

 

ときの河に船出して

流れるままにながされる ときの旅人


春の陽光

 

パンジーの夢ひらく 

むらさきやらしろやらきいろやら

 

ほかほか いい気持ち

 

あ 紋白蝶だ

 

一瞬のひかり

 

充ち足りた時間 

すぐに いなくなる


ときが風になる

ときが河になる

 

風景のなかに漂泊する ときの旅人

 

流れるままに ながされて

どこまでも 流れていくだけさ

 

 

                               奈津光平の詩「ときの旅人」より

 




 

 


 

 

 

                         

大樹のかげで


 












                            

寒椿

 


















                          

路地裏


 


昔のときの呼吸する 

ひっそりとした 白い路地裏  

 

ところどころに 

荒壁の剥げ落ちた廃屋が 淋しそうにたたずみ 

苔むした溝に 痩せた水が 流れている

 

狭いでこぼこの 曲がりくねった裏道に 

かしましい蝉の鳴き声が 赤い空気を震わせ

 

ときおり 潮の香りに交じって 

幽(かす)かに 魚の生臭い匂いが漂ってくる

 

遠く澄みわたった青空に 

ゆったりと 雲影がながれてゆき

 

人影が全く途絶えた 路地裏に 

静かに夕暮れが 忍び寄る

 

やがて しんしんと 夜気の漂う草むらの影に 

蛍の光が うす淡く明滅し 

 

幼いときが 夢のなかに 消えてゆく 

 

 

 

奈津光平の詩「路地裏」より

 







 

 

                            

早苗田


 













                            

5月の陽光


 









                         

長夜


 


黄色く熟れはじめた空気の中に

しずかにただよう 甘い金木犀の匂い

 

白い野道には

うす桃色の芙蓉の花が 淡くひかり

秋風にゆれる 可憐なコスモス

 

早い日暮れのなかに 

夕餉の気配が沁みわたり

 

短い落陽が 

民家の瓦のむこうに沈んでゆく

 

寄る辺のない旅人の 

長い夜はとてもさみしい

 

背後に生霊の憑依する 古い夢

 

そっと 振り向いても

傾いた窓の影が しらしら揺れているだけ

 

  

奈津光平の詩「長夜」より