大晦日



うす暗い寒気を突き破って 朱い山茶花が 艶やかに咲き

しんとした静寂の中に 銀杏の枯葉が 舞い散っている

遠くの冬木立から 寒い鴉の鳴き声が 侘びしくふるえ  

遠くにかすむ 冬枯れ道に 放浪の旅人が 俯きながら歩いてゆく

 

空の青さに 薄墨の夕闇が だんだんとまぎれこみ 

落日が 夕雲を朱色に染めて 静かに沈んでゆく

もう少しすると 除夜の鐘が鳴り

月光を浴びながら 煩悩があの世の涯(はて)へと帰ってゆく

 

遠い昔の彼方から レールの軋む音が かすかに聞こえてきた

あの雪の降る 大晦日の夜に降り立ったのは どこの駅だったのだろう 

見知らぬ街角に 淋しい街路灯が 雪明りの道をぼんやりと照らし

嗚咽するように 赤い霊魂の炎が 哀しく明滅していた

 

玲瓏たる静謐が 大晦日の夜を覆い尽くし 今年が終わろうとしている

やがて 新年の暁光(ぎょうこう)が 消滅したときの暗闇を払拭し

この厳寒の冬に 新しい生命にあふれた 希望の光を 降りそそぐことだろう 

そのとき 大空高く舞いあがる大凧のように 夢に向かって 衝動が駈けだしてゆく

 

 

奈津光平の詩「大晦日」より

 


永遠の刻時


 

空は青く澄みわたり 

柔らかい日差しは 汗ばむほどの陽気を降り注いでいる

幾重にも降り積もる枯葉の中に ドングリがいっぱい埋もれ

甘い秋の香りが漂う

 

透明な空気を 切り裂きながら

明るい人影が 軽やかに まるで妖精のように走っている

その街路に沿って うす茶色に樹立するケヤキは 陽光をつやつやと反射させ  

幽玄に色づいた ソメイヨシノの枯葉は 風に舞いながら散ってゆく

 

あたりには 透きとおった 静謐なときが満ちあふれ

ときおり 爽やかな風に乗って 澄んだ竹笛の調べが 流れてくる

しずかに目を瞑ると 遠い宇宙の夢幻の魂魄が きらきらと輝きはじめ  

こころのなかに 永遠のときが 刻み込まれてゆく

 

 

        奈津光平の詩「永遠の刻時」より

 


現身


 


白百合の匂いの漂う 納屋の片隅に

錆びたリヤカーが ひっそりと置かれている

遠い昔に 町まで花を積んで 行商したリヤカーだ

このリヤカーを押して 花の香りを届けた人はもういない

 

寒々とひろがる 大空は どこまでも 突き抜けて青く

険しい山並みから 吹きとどろく 烈風を切り裂いて 

さみしい銀色の列車が 氷柱のように 走り去ってゆく

 

無機質に風化するときの中で もう あの日には 戻れないけれど 

寒い夜明けの太陽の づんづん太くなる光線は うす暗い灰色の冬を 

ひときわ明るい春色に 変容させている 

 

もう少しすると  

あの日と同じように まぶしくきらめく 春の光が満ち溢れ

白百合の匂いに噎びながら ほほ笑んでいた あの人の姿は 

まぼろしの桜吹雪の中に 鮮やかに 浮かびあがり 

この骸(むくろ)のような 現身(うつしみ)のときを  

生命に輝く 楽しい夢に 誘ってくれるにちがいない

 

 

    奈津光平の詩「現身」より









 

                           


雨の日


 














                           

老残の夢


 


遠い昔に 

艶やかな緑にとがった 稲葉をなびかせて

筋肉質の夏風は 青い汗の迸(ほとばし)る 

若さの影のなかに 吹き去っていった

 

あのころは 楽しかった

これから先の 約束された将来を 確信していた

それが今では 襤褸のように 落ちぶれはて

零落の鴉と一緒に 山野のあばら家に棲んでいる

 

トウモロコシを食べたい

とおい県境の 痩せ山の さむい畑でとれた 

一口噛めば 甘い幸せのときが 口内に広がる 

あのスイートコーンを もう一度食べたい

 

あの大賀ハスは 今年も瓢箪の池で 

淡い桃色の 太古の花を 咲かせているのだろうか

あの軒下の 涼やかな風鈴は 

いまでも 魂の音色を 奏でているのだろうか

 

ああ 遠い夢は 老残の魂魄に 散りしだれ

まぼろしの彼方を かけめぐる

 

 

   奈津光平の詩「老残の夢」より








 

                         

永劫


 

















                          

冬どけ


 

凜として 澄みわたる青空から 

燦々と黄金色の光線が 降りそそぎ

ニットの帽子に 暖かい日溜りが落ちてくる

こんな気持ちの良い陽光に 巡り合うのも久しぶりだ

 

あたりはまだ 酷寒の冬が支配しているけれども

きりきり輝く太陽光線は 確実に冬をとかしつづけている

遠くにくっきり連なる 山並みのうえから 

明るい光線が嬉しそうに 春を呼んでいる

 

もうすぐすると 柔らかい春のあかりが 

あたりいちめんに 朗々と満ち溢れ 

桃色に魂魄の火照る 春の光の中に 

楽しい夢が 麒麟のように 駈け出してゆくだろう

 

   奈津光平の詩「冬どけ」より


 





 

                          

息吹


 
















                           

いつもの公園で



 

いつもの噴水に きらきらと夏が宿っている

空気は むらさき色に湿って とてもまろやかで

ジンジンと 日光が太くなり 涼風が 肌に心地よい 

 

満開の ミツバツツジやヒラドツツジが 

白やら赤やら たわわな色彩を 大盤振る舞いし

カイズカイブキのみどりは ますます濃く尖がってきた

 

白い靴下を脱いで 素足になる

明るく照り輝く太陽に 茫然と魂が呆け   

竹笛のように こころが軽くなってきた

 

噴水の飛沫に まぼろしのような 淡い虹がゆらぎ

自転車の恋人たちは 明日の愛へ 銀輪を走らせ

遠い昔の潮騒は うす絹のように 無音のなかに消えてゆく

 

そうして

いつもの公園は 悠久のときが 静かに流れてゆく

 

 

   奈津光平の詩「いつもの公園で」より

 











 

                          

真夏の砂浜


 














                           

棲家


 

ときおり吹いてくる むらさきの風に

石畳の清楚なコスモスが ひそやかに揺れまどい

郵便局の哀愁がただよう 鄙びた街角に 

わたしは いつも一人ぽっち

 

雲の切れ間から落ちてくる 一条の光線が

孤独の帽子を きらきら照らしても

わたしの自我は 暗い深海のように 抑圧されている


だれでも 生まれては消えてゆく 無常のときのなかで

有限のときを 夢のように消費し やがては尽き果てる

 

そのときまで

厚顔無恥な人間の言葉には いっさい関わらず

一人きりの 自由の棲家のなかで

荒縄のつり橋のように ひっそりと暮らしてゆきたい

 

 

 

            奈津光平の詩「棲家」より

 











                           

羊雲


 


















                           

漂泊


 















                          

朝陽


凜(りん)と冴え切った大気に 明るい朝陽が降りそそぎ

白い空気の中に 大きな松の木が 公園を取り囲み  

艶やかな松葉が 朝陽に照らされてひかっている

 

音のしない白い道を 歩いてゆく

歩道の鉄柵に枯れ蔦が 発展途上のように絡みつき

道路下の田んぼに 痩せた人影が 歩くたびに薄くなって消えてゆく

 

灰色の街路に クロガネモチの赤い実が ひっそりとたたずみ

水枯れの川原に 乾いた小石がひかり

びゅっと唸る電線に 鴉が置物のように 止まっている

 

だんだんと太陽が昇り ひときわ眩しくなってくる

この陽光の中に 肉体はからからと 風化してゆくけれど

朝陽に照らされて 生きてゆくことは しんから気持ち良い

 

 

       奈津光平の詩「朝陽」より

 

 

 


 

 


                           

入道雲


 












                            

光のかけら


 

















                           

夢へ


 

遠くの 春霞の煙る小径を 

杖をついた老人が とぼとぼと歩いている

その背中に 紺碧の大空から 

明るい陽光が キラキラと降りそそぎ

赤く噎せ返る 春の匂い中に

紫のパンジーが 鮮やかな花弁をひろげている

 

老人がしばらく歩いていると 

その行く手には たくさんの道が分かれ 

どこに続いているか 分からない

それでも もはや ときの後戻りする道はないから 

一瞬の光を すばやく掴みとるように 

進むべき道を 決めなければならない

 

老人は 心の囁きに耳を澄ました

そうだ 夢へと続く道を行けばよいのだ

唇のかさかさに渇いた 老残の苦悩を乗り越えるために

夢の匂いの立ちこめる道を 見つけ出して

とおい憧れに だんだんと近づいてゆこう

 

もしも その歩きはじめた道が

夢へとつながっているか 不安に思えても

それは 道を間違えているのではなく 心が迷っているのだ

心のときめく道を しっかりと歩いてゆけば 

かならず ひかり輝く永遠の夢に 出逢うことができるだろう

 

 

                        奈津光平の詩「夢へ」より