異国


 

異国に一人ぽっち

とてもさみしい

 

闇夜の砂漠のように

話す言葉は風に消されてしまう

 

いつまでたってもまぼろしの汽車はやってこない 

せっかくあおい切符を手に入れたのに

 

蒼天に羊雲がゆっくりと流れてゆく

あの羊といっしょに無垢の国へ行ってみたい

 

朱い欄干を噛んだ牙はどこに行ったのだろう

月の砂漠に落としてきたのだろうか

 

唇がカサカサに乾いちゃった

淡い灯影のゆれる酒場で冷たい麦酒を飲みたい

 

異国の片隅に青い夢が眠っている

明日も生きてゆかなくちゃ

 

 

 

奈津光平の詩「異国」より







 

 



   
                           

真夏の太陽


 














                           

いま


 












                           

至福



 












                          

青いスニーカー



 

いつの間にか 夜が明け 

まぶしい朝日が 眼に沁みる

 

寒くて暗い冬は ようやく終焉をむかえ

まちこがれた あたたかい春に もうすぐ逢える

 

桜が咲けば 青いスニーカーといっしょに 

川沿い道を 散歩しよう

 

川面にやさしくそよぐ さわやかな風

なぜか 嬉しい予感に 胸が躍る

 

歩き疲れたら 公園のみどりのベンチで

温かい珈琲を飲もう

 

春の太陽を いっしんに浴びながら 

軽やかな足取りで どこまでも 歩いていけば  

きっと いつかは夢に 追いつくだろう

 

 

奈津光平の詩「青いスニーカー」より

 



 


 




            
                       

まろやか太陽


 










                           

残光


 













                        

蝉時雨



灼熱の太陽に照らされて 今日も

かしましく蝉が鳴いている

はかないまぼろしのバスに乗って 

勤めに出るわたしに おさないときの 

蝉の鳴き声が まとわりつき

バス停のわたしは 哀しい眩暈を感じながら 

遠い記憶の底に落ちてゆく

 

孤独な入道雲が 白い空に寂しくただよっている  

夏の匂いを撒き散らす入道雲も 

青い風にさすらい いつかは 知らない空に 

うすく消えていくのだろう

 

いつのまにか いつもと違うようになってしまった

いつから いつもと同じでなくなったのだろう

どうして いつもがいつもでなくなるのだろう

 

わたしは予感する 

いつかきっと どしゃ降りの蝉時雨のなかを 

わたしの終止符が わたしの魂をむかえにくることを

 

やがて

葡萄畑のなかの砂利道を するすると 

夢のように バスがやってきて

わたしは 喪失したときで作られた 

薄汚れた革靴を引き摺りながら バスに乗った

 

バスが遠くに見えなくなったあとにも  

真っ白な静寂の中で ただ 蝉の鳴き声だけが 

悲しく泣き続けていた  

 

 

奈津光平の詩「蝉時雨」より

 

 

 





 

                          

夢の影









                          

じんせい










                           

平凡な孤独

                                        




いつものように 放浪の旅人は

見知らぬ土地の木賃宿で 

貧しい漂泊の埃を数えていた 

 

ああ 自由な旅人

何と 魅惑色に響く 魔法の言葉か

思いのままに時を刻める 流浪の旅人よ 

今日も 荒ぶれた廃屋の片隅に 一日の疲れを葬り去り 

明日の 荒地を渡り歩もうとしているのか

 

誰もが 漂泊者の足音を心に感じていても

怠惰な日常から旅立つことはできなかった 

 

あたりまえのように 生活の足枷に縛られて    

通勤電車に揺られている 平凡な勤め人は 

大地の果てまで 放浪したことはなかった 

 

けれども 真面目な勤め人ほど 

色あせたときの繰り返しのなかで 

日常の暮らしにさまよいただよう 

本当の孤独な旅人だった

 

ああ うすら冷たい孤独の魂が 

暗い影に閉ざされて 命の焔をもやしている

いつになれば 魂のやすらぎが

わたしに 訪れるのだろうか

 

 

奈津光平の詩「平凡な孤独」より





 

     

                                                                       

ほた火

 







                        

夕暮れ時


 














                          

赤い靴音


 

痩せた子供が 森の中で 栗の実を拾って遊んでいた

あたりには 郭公の鳴き声が のんびりとこだまし  

木立の葉陰からは 黄色い木漏れ日がさしながれ

りんりんと吹きわたる秋風に 落葉がかさかさと舞っていた

 

そのとき 子供は 遥か遠くの老人に気がついた 

目を細めて よおく見ると

幻想の小道に 痩せた老人が 腰をかがめ歩いている

 

老人の目の前を 亡霊がよぎる

昔やりのこしてきた 青白い亡霊たちだ

擦り減った老人の時間は わずかな囁きにも

枯れ木のように ぽっきりと折れてしまう

もはや 亡霊たちの希望を聞く力も喪われてしまった

 

一陣の風にさえ ふきとばされる 塵埃のような人生よ

ゆめまぼろしのなかで 時間が笑い出して 

遠い昔にさかのぼるすべがあるのなら

はち切れる陽光の中を歩むことができたであろうか

 

けれども 冷たくしんとした薄暗がりなかで 

痩せた子供は 赤い靴をはいていた女の子の靴音を 

もう二度と聞くことはなかった

 

                                      奈津光平の詩「赤い靴音」より







 

 

                                                                                          

麦酒













 

                          

みどりの散歩


 










                          

夜明


露草の雫のかげにかくれて 

鈴虫が鳴いている

うすぼんやりと月影が 

木立によりかかっている

生暖かい風に 萌黄色の落葉が 

くるくると舞っている

このなだらかな坂道を登りきれば 

もうすぐ夜明だ

 

そのとき どこからともなく

なつかしい匂いが わたしをいざなう

これは小学校の黒板の匂いだ 

チョークの香りもする            

 

遥か遠くの懐かしい 小学校の校庭に佇むと 

風向計の羽根が 北北西をさしている

風車が くるくるとまわっている

小さな子供たちが 百葉箱を囲んで 

小さな夢を語っている 

 

それなのに 夜が明けると 

キラキラと輝いていた瞳は 

もうどこにもなかった 

 

朝日のなかで すり減ってゆく 

この命が淋しかった

 

 

                         奈津光平の詩「夜明」より

 







 

 

                                                                                               

プラットホーム













 

                          

春の日


 









                           

金色の穂波


 


                黄金色の稲穂が 秋晴れの陽射しに照りかえり   

         まばゆくきらめいている

         あの青く小さかった苗代が 

         命の太陽を呼吸して 今ここに耀いている 

         それを祝うかのように 金色の穂波が 

         透明な秋風に 揺られ歌っている

 

         そうして 時を忘れたかのように 

         のどかな田園は 青い夜のなかに 

         静かに落ちてゆき 

         やがて 暗闇のなかで 青い樹葉が風に震え 

         痩せた岩がひかりはじめ

 

         この死人のようなしじまにつつまれて 

         わたしは静かに孤独の酒を飲む  

 

         そうして 金色穂波の眠る夜が 

         そよそよと更けゆき 

         酔いの終わりの 虚しい残り香のなかで     

         わたしは 語るべき言葉すらも亡くしてしまった  

 

 

      奈津光平の詩「金色の穂波」より