冬の光


 










                          

秋風


 












                         

永劫の孤独


甘いときに濡れた紅葉が

風もないのに ゆらゆら散りそめて

うずくように ときが光りはじめた

 

ひかりは 山のすそ野や川辺にひろがり

あたりいちめん 黄色い秋の光につつまれる

 

なんと おだやかですてきなひかりなのだろう

 

ああ それなのに 

このうす気味悪い不安はどうしたことなのだろう

徐々に桃肉を蝕む寄生虫の蠕動(ぜんどう)のように

漆黒の深奥から得体の知れない悪寒がよだつ

 

いつの日にか かならず消滅する わたしの生命体 

死ぬまぎわの 底知れない恐怖

そこはかとなく辛い 

存在そのものに孕(はら)んでいる永劫の孤独

 

おだやかな光は さんさんときらめき反射して 

わたしのなかに やわらかく降りそそいでいるのに   

悲しい孤独は いつまでもまとわりついてはなれない

 

ああ 想像力をもってしても

癒すことが出来ない この孤独の怯えを 

百億光年の魂魄は やさしく慰めてくれるのだろうか

 

             奈津光平の詩「永劫の孤独」より 

 

 






 

 

                           


 

夢の残骸


 






















                          

遠い日


 















                          

虚空の道


 

紺碧の大空から 

少しずつ 光と影の境目が 蠢(うごめ)いて 

やがて 太陽が山頂に傾いてゆくころ

遠くの旅人の孤影は 冷たい情熱をくゆらせて 

うつむきながら 白い野道を歩いてゆく

 

旅人の 無垢の瞳をめぐらせて 遥か遠くの 

永遠の未来を探してみても 夕靄のように 

たよりなく すべての実在が曖昧になる 

 

貧しい財布の中の わずかな時間(とき)は 

涙ににじんで かすんでゆき

向日葵の咲いている 海辺の町までの 

残された時間が計算できない

 

それでも 朝日が昇れば 幻影のように 

みどりの光が 燦々と降りそそぎ

そうして

虚空の道を さまよい疲れた

永劫の旅人の影は 溜息ひとつ残して 

まぼろしの中に消えてゆく

 

 

       奈津光平の詩「虚空の道」より

 

 










                          


ものいわぬ一日


 
















                           

夏の終わり


 










  

                          

蝉のころ


 

灼熱の陽光が降りそそぐ炎天下に 

赤い松の樹皮にしがみついて かしましく蝉が啼いている

今年も いつのまにか 蝉のころとなってしまった

 

ああ 赤く命を震わせて啼く蝉の声が わたしを遠い夏の日に連れ戻す 

 

息が詰まるほど懐かしい あの青い砂浜の民宿

子供たちは波打ち際で 砂のお城を作り 潮の香りの松風が海辺を吹き渡る

紫紺の水平線に 夕陽が茜色に沈み 食卓には溢れるほどの海の幸

 

入道雲が幾重にも聳(そび)えたつ公園で 転がるように滑った急傾斜のすべり台 

早瀬の流れが小さな滝つぼに落下し 白く立ちのぼる冷気

パンツまで濡れて 水遊びをしている子供たち

 

空と屋根の遠くより しいと啼く蝉の声が 遠い昔に駈け巡る 

蝉の子を捕らえようとして 熱い砂地を踏んでいった子供たちよ 

今は何処にいるのだろうか

 

 

奈津光平の詩「蝉のころ」より

 

 






 

                           


歳月


 
















                         

無垢


 














                          

不思議な椅子

 


貧しい椅子に腰かけて 

暖かいコーヒーを飲みながら 

談笑した人たちは 

もうこの世にはいない

不思議な椅子だけが残っている

 

ユーカリの木は 今年も青々と陽光にはじかれ 

楽しく踊っているのに

わたしの寂寥は 黒い風に吹き飛ばされて 

さびしい墓の中に うずくまってしまった

 

もうわたしの遠い生命の追憶は 

ぼろぼろに風化して 

古い時計の針のように 

虚空の音を立てながら 

さびしいときを刻んでいる 

 

ああ

だんだんと 生命の白い潮騒が遠ざかり  

わたしの意識は 薄い靄のなかを 

らせん状に薄れてゆく 

 

もうわたしは 不思議な椅子に

触れることさえもできなくなった  

 

 

      奈津光平の詩「不思議な椅子」より

 

 

 




 

 

 

                         

夏賛歌


 













                          

秋の陽光


 












                          

憑依


痩せ細った 銀杏の枝先に 

うらぶれた浮雲が しろくただよい  

貧しい渡り鳥が よろよろと消えてゆく 

 

うす黒く 湿っている田圃に  

萎びた切株が 音もなくこごえ   

あたりには ほの白い冬の匂いが 

かすかにふるえている

 

とうとう 

今年の秋は死んでしまった

これからは くる日もくる日も 

こころも凍てつく 

冷たい風がふきわたるのだろう 

 

そうして 

死霊のむせぶ 

寂しい風音がせまるとき

涙の翳に忘れていた 

生まれてきた悲しみが 

もだえながら よみがえり  

濡れた雑巾のように 

年老いた背中に さりげなく

憑依(ひょうい)するにちがいない

 

 

     奈津光平の詩「憑依」より

 

 

 












                           

夢の面影













 

                          

ときの影法師


 












                          

かりそめのとき


 

いま この眼に映っている 

都会の風景は 本当に存在しているのだろうか

 

天をつく高層ビルディングも

夥(おびただ)しい自動車の洪水も

うら悲しい酒場も

真っ白な高速道路も 

みんな まぼろしのようだ

 

触れると 冷たい氷

それが存在の証明だとしても

この感触そのものが

まぼろしかもしれないのに

どうして 

この風景が存在しているといえるのだろうか


あまりにも 

かりそめのときが永すぎて  

わたしの実在は ゆがんだ傾斜のなかに

ずっと 息をひそめて生きてきた

 

さむい夕闇のなかに 

都会の靴音が 青白く遠ざかってゆき 

わたしの曖昧な存在は 

むらさきの母乳の匂いにつつまれてゆく 

 

 

            奈津光平の詩「かりそめのとき」より











 

                         


時空


 












                           

陽炎



 













                           

日光浴



 

空は突き抜けて青く 

熱烈な陽光に空気が 赤く膨張し 

怒(いか)ったように 

容赦なく熱波が襲いかかる

 

この眩暈(めまい)がするほどの 

熾烈な日差しの中に 

街は 死人のような 白い静寂に覆われ

誰もいない公園に 蝉の鳴き声だけが 

夏の生命にざわめいている

 

強烈な熱気につつまれて 

かがやく陽光を全身に吸収する

まるで 

絹の蒲団(ふとん)にくるまっているように気持ちが良い

灼熱の陽光のなかに 

ぼんやりと座っている 宝石のような幸福

太陽はたとえようもなく美しい

 

 

奈津光平の詩「日光浴」より