大晦日



うす暗い寒気を突き破って 朱い山茶花が 艶やかに咲き

しんとした静寂の中に 銀杏の枯葉が 舞い散っている

遠くの冬木立から 寒い鴉の鳴き声が 侘びしくふるえ  

遠くにかすむ 冬枯れ道に 放浪の旅人が 俯きながら歩いてゆく

 

空の青さに 薄墨の夕闇が だんだんとまぎれこみ 

落日が 夕雲を朱色に染めて 静かに沈んでゆく

もう少しすると 除夜の鐘が鳴り

月光を浴びながら 煩悩があの世の涯(はて)へと帰ってゆく

 

遠い昔の彼方から レールの軋む音が かすかに聞こえてきた

あの雪の降る 大晦日の夜に降り立ったのは どこの駅だったのだろう 

見知らぬ街角に 淋しい街路灯が 雪明りの道をぼんやりと照らし

嗚咽するように 赤い霊魂の炎が 哀しく明滅していた

 

玲瓏たる静謐が 大晦日の夜を覆い尽くし 今年が終わろうとしている

やがて 新年の暁光(ぎょうこう)が 消滅したときの暗闇を払拭し

この厳寒の冬に 新しい生命にあふれた 希望の光を 降りそそぐことだろう 

そのとき 大空高く舞いあがる大凧のように 夢に向かって 衝動が駈けだしてゆく

 

 

奈津光平の詩「大晦日」より