くまなくきらきらかがやく 透明な光

太くて強い 夏の光

青く澄み渡った大空に 入道雲がまぶしく光っている

 

外へ一歩踏み出した瞬間 

明るく透きとおった陽光が 激しく降りそそぐ

 

ひかりの針に刺され ひりひり痛い

大粒の汗が ほとばしる

 

攻撃するほどきらめく この太陽が大好きだ

もうどこにも 憧れなんてありゃしない

もうすぐ わたしの魂はひかりになるのだから 

 

    奈津光平の詩「光」より

再生


 

大空は 蒼く深く澄みわたり

あおあおと茂っていた銀杏並木も いつのまにか黄色くなった  

もうすぐ 北風に吹き飛ばされて 

自動車のフロントガラスに 黄色い雨を降らすことだろう

 

でこぼこのアスファルト歩道に

津波のように繁茂している セイタカアワダチソウが

わがもの顔で秋を貪っている

きっと 日本の秋は 居心地がよいのだろう

 

冷たい空気に触れながら まっすぐの道を今日も歩く

いま生きていることを こころのなかで反芻(はんすう)する

今のときは 昔のときに繋がっている 

だから そのときを手繰(たぐ)り寄せれば 

昔のときに逢えるかもしれない

だけども 戻ってはこないときを 取り戻したいと思念することは哀しい

 

柩(ひつぎ)のような寂寥のなかに 自分の影だけを追いながら歩いている

そうして いつかは 

忽然(こつぜん)と わたしの姿は この世から消えてしまう

その後に 

神々しい光の中に飛翔する まぼろしの鸞(らん)のように 

わたしの魂は 清らかに再生するのだろうか

 

 

奈津光平の詩「再生」より

 

待春


 

凛とした酷寒の空気の中に 眼静脈のような細枝を 

凍空いっぱいに広げた 川沿いの桜並木は 氷山のように 遠くまで連なり

あたりいちめん どこまでも 厳寒な冬が さみしい風景に固着している 

 

いつしか 冬の短い太陽は 低い山陰に傾き 寒風の中に落ちてきた 

黄色い夕焼けを背負って 公園の子供たちは あたたかい夕餉のもとへ帰ってゆく

誰もいない公園に取り残された 白いブランコが 夕闇の中にさみしく揺れている

 

こんな 灰色に凍えるときを 幾夜も幾夜もくりかえし 

冬のときが 流星のように だんだんと 加速してゆけば 

少しずつ少しずつ 呪われた極寒の空気は 赤く濡れはじめるにちがいない

 

そのうち まぶしくかがやく 春の陽光をさんさんと浴びて 

卒塔婆のような桜の裸木から あの妖艶な花びらが 爛漫に咲き誇ることだろう 

 

ああ 生命が許されている間に 早く きらきらひかる 春に逢いたい

 

 

奈津光平の詩「待春」より

 

 

 

化身


 

なだらかな山稜へ落ちてゆく 音のない孤独の夕陽に

和毛(にこげ)色の山肌が 淡雪のようにひかり

谷底の渓流に 冷たい北風が 吹きわたる

 

黄色い夕陽は だんだんと 暗闇に呑み込まれ 

残光をまき散らしながら ゆらゆらと 古いときのなかに消えてゆき

白い夜が 鬼夜叉のように 漂泊の旅人の生命を 削り取ってゆく

 

こんな 虚ろなときのなかで さみしい老化の道を 彷徨っていても

生きている限りは かならず 夜明けとともに 目眩く太陽に邂逅することができる

 

だから 夢の寝床に横たわる そのときまで 嗄れた咽喉を 

ひりひりさせながら 鋭角に研ぎ澄まされた 生きる意志をぎらぎらと輝かせ

そうして 

最期の空蝉のときを迎えたなら その末期の瞬間に

強靭な生命の光彩を じんじんと放射する 太陽の光に化身したい

 

 

     奈津光平の詩「化身」より

 

 

存在


 

冬の夜道の濃い闇の中に さみしい街灯の明りが 

山姥(やまんば)の亡霊のように ぼわっと揺れている

ときおり 耳朶を切り裂くような 寒風が吹きすさぶ

 

貧しい外套の襟首に 酷寒の冷気がしみ込み

生きることの 覚束(おぼつか)ない不安

この凍空のなかに わたしという存在は 消滅してしまうかもしれない

 

遥か遠くの彼方に 漁火(いさりび)のように

青白い生命の炎が かすかに揺れている

きっと もうあそこまで 魂の叫び声は 届かないのだろう 

 

そのとき 螺旋状に薄れてゆく意識のなかに

寒い故郷の廃屋の 遠い昔の家族の笑い声が

灼熱の陽光に照らされた 幻聴のように まぶしく爆(は)ぜ散った

 

奈津光平の詩「存在」より

 

 

 

 


 

きらきらかがやく透明な青空に 白光りする積乱雲

黄金色に輝く真夏の太陽が 強烈な光線を容赦なく 地面に叩き付け

その陽光を浴びて 今日も おびただし蝉が けたたましく鳴いている

 

長い地中の幼虫から 神の啓示をうけて 地上に羽化する 蝉たち

夜明けとともに 青白い透明な羽を広げ きらめく朝日に飛翔してゆき

そうして 生命を繋ぐため 渾身の力を振り絞って鳴きはじめる

 

夏の陽光が天空高くかがやくころ ツクツクボウシがにぎやかに鳴きだし

夕暮れが近づいてくると ヒグラシの物悲しい鳴き声が聞こえてくる

やがて 日暮とともに 夕焼けの空遠く 蝉の声が消えてゆく

 

奈津光平の詩「蝉」より

復活


 

ゆっくりと流れる 高積雲の隙間から 

一筋の光芒が 黄色い柿の実に きらきらと差し込み

朱色に染まり始めた 桜の葉に しんしんと秋は深まりゆく 

 

こんなに心地のよい 晩秋の日には 

遠い昔の 小春日和の縁側で ぽかぽかと日向ぼっこをしていた

幼いときの面影が 蜻蛉のように よみがえる  

 

こんなふうに 遠い日々の暮らしの中で

もはや 取り戻すことのできない たくさんのときが 

過去という名前になって 夢のように 死んでいった

 

それでも 大空に消えてしまった雲が ふたたび生まれ変わるように

燦々と太陽を浴び うららかな風に 生命を吹き込まれたなら

人間のときは ぎらぎらとまばゆく 復活しないだろうか

 

 

      奈津光平の詩「復活」より

遠い夢


 

暮靄(ぼあい)に包まれながら

夕暮れは だんだんと 闇に溶けてゆき

日陰の旅人は かりそめのなかに 帰って行く 

 

遠い夢の中に さまよっている

正太郎くんの 鉄人28号

あかい空気を切り裂く 赤胴鈴之助の真空切り

 

綿のように降り積もる雪に はしゃぎながら 

サンタクロースに ローラースケートをお願いして

お母さんを困らせた あの日

 

一瞬の輝(かがや)きが 永遠となる日

どうだんつつじの 噎(む)せかえるなか   

遠い思い出が 夢を追いかけている

 

 

奈津光平の詩「遠い夢」より

 

 

 

うしろ影


 

どこまでも澄み切った 群青の空  

ひかりが遠くまで 燦爛(さんらん)ときらめき

輪郭の濃い日差しが 石畳にきらきら反射している 

 

橡(とち)の木の 大きな葉に日光が弾け跳び 

やまももの木が 濃い緑に膨らんでいる

冬の間は枯れ木の ノウゼンカツラが 青い蔓(つる)をたわわに伸ばし 

朱鷺色(ときいろ)のラッパの花を咲かせている

 

悠久の大地に 爽やかな夏の風が吹きわたり

アキニレの樹影が ゆらゆらと風になびき 

夢のように 光と影が揺れながら 遠くのほうへながれてゆく

 

きらめく陽光のなかに 

お母さんと手を繋いで歩いてゆく 幼い男の子の後ろに

短いときの影が さみしくゆれている

 

 

奈津光平の詩「うしろ影」より

 

 

 

 

バス乗り場


バスが来るまでの二十八分間  

のどかな のんびりとした時間

濃い光に 木立の影がくっきりと鮮やか

入道雲がたくましい 

涼しい太い風 竹藪がゆれている 

雀が一羽 木の葉に飛ぶ  

かしましい蝉の鳴き声 

向日葵が大きくて黄色い  

 

夏に包まれていい気持ち

やさしさが充ちてくる

こころのなかに ゆったりと

遠い昔の懐かしさが蘇る

 

あおい蚊帳のなかで 

蒲団をごろごろ転がる 華奢な身体

いぶされた蚊取り線香 お寺の匂い

天井にゆれる 青白い人魂(ひとだま)

恐ろしくて目を瞑ると 

いつの間にか夢のなか

 

バスがやって来る 

何も知らない無邪気なときがゆれる

乗客の中に紛れこむ

バスを待つ二十八分は どこかへ消えてしまった 

 

風は吹きわたり 雲は流れてゆく

きょうも いのちが 喜んでいる

 

    奈津光平の詩「バス乗り場」より