不思議な椅子

 


貧しい椅子に腰かけて 

暖かいコーヒーを飲みながら 

談笑した人たちは 

もうこの世にはいない

不思議な椅子だけが残っている

 

ユーカリの木は 今年も青々と陽光にはじかれ 

楽しく踊っているのに

わたしの寂寥は 黒い風に吹き飛ばされて 

さびしい墓の中に うずくまってしまった

 

もうわたしの遠い生命の追憶は 

ぼろぼろに風化して 

古い時計の針のように 

虚空の音を立てながら 

さびしいときを刻んでいる 

 

ああ

だんだんと 生命の白い潮騒が遠ざかり  

わたしの意識は 薄い靄のなかを 

らせん状に薄れてゆく 

 

もうわたしは 不思議な椅子に

触れることさえもできなくなった  

 

 

      奈津光平の詩「不思議な椅子」より

 

 

 




 

 

 

                         

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