存在


 

冬の夜道の濃い闇の中に さみしい街灯の明りが 

山姥(やまんば)の亡霊のように ぼわっと揺れている

ときおり 耳朶を切り裂くような 寒風が吹きすさぶ

 

貧しい外套の襟首に 酷寒の冷気がしみ込み

生きることの 覚束(おぼつか)ない不安

この凍空のなかに わたしという存在は 消滅してしまうかもしれない

 

遥か遠くの彼方に 漁火(いさりび)のように

青白い生命の炎が かすかに揺れている

きっと もうあそこまで 魂の叫び声は 届かないのだろう 

 

そのとき 螺旋状に薄れてゆく意識のなかに

寒い故郷の廃屋の 遠い昔の家族の笑い声が

灼熱の陽光に照らされた 幻聴のように まぶしく爆(は)ぜ散った

 

奈津光平の詩「存在」より

 

 

 

 

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