待春


 

凛とした酷寒の空気の中に 眼静脈のような細枝を 

凍空いっぱいに広げた 川沿いの桜並木は 氷山のように 遠くまで連なり

あたりいちめん どこまでも 厳寒な冬が さみしい風景に固着している 

 

いつしか 冬の短い太陽は 低い山陰に傾き 寒風の中に落ちてきた 

黄色い夕焼けを背負って 公園の子供たちは あたたかい夕餉のもとへ帰ってゆく

誰もいない公園に取り残された 白いブランコが 夕闇の中にさみしく揺れている

 

こんな 灰色に凍えるときを 幾夜も幾夜もくりかえし 

冬のときが 流星のように だんだんと 加速してゆけば 

少しずつ少しずつ 呪われた極寒の空気は 赤く濡れはじめるにちがいない

 

そのうち まぶしくかがやく 春の陽光をさんさんと浴びて 

卒塔婆のような桜の裸木から あの妖艶な花びらが 爛漫に咲き誇ることだろう 

 

ああ 生命が許されている間に 早く きらきらひかる 春に逢いたい

 

 

奈津光平の詩「待春」より

 

 

 

0 件のコメント:

コメントを投稿