蝉時雨



灼熱の太陽に照らされて 今日も

かしましく蝉が鳴いている

はかないまぼろしのバスに乗って 

勤めに出るわたしに おさないときの 

蝉の鳴き声が まとわりつき

バス停のわたしは 哀しい眩暈を感じながら 

遠い記憶の底に落ちてゆく

 

孤独な入道雲が 白い空に寂しくただよっている  

夏の匂いを撒き散らす入道雲も 

青い風にさすらい いつかは 知らない空に 

うすく消えていくのだろう

 

いつのまにか いつもと違うようになってしまった

いつから いつもと同じでなくなったのだろう

どうして いつもがいつもでなくなるのだろう

 

わたしは予感する 

いつかきっと どしゃ降りの蝉時雨のなかを 

わたしの終止符が わたしの魂をむかえにくることを

 

やがて

葡萄畑のなかの砂利道を するすると 

夢のように バスがやってきて

わたしは 喪失したときで作られた 

薄汚れた革靴を引き摺りながら バスに乗った

 

バスが遠くに見えなくなったあとにも  

真っ白な静寂の中で ただ 蝉の鳴き声だけが 

悲しく泣き続けていた  

 

 

奈津光平の詩「蝉時雨」より

 

 

 





 

                          

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